△秘境駅として知られるJR小和田駅に停車するJR飯田線の普通列車
明確な定義はないものの、駅の周辺に集落や車道がない自然に囲まれた駅はいわゆる「秘境駅」と呼ばれています。
秘境駅といえば、JR豊橋駅(愛知県豊橋市)とJR辰野駅(長野県上伊那郡)を結ぶ全長195.7kmのJR飯田線の沿線には手つかずの自然が多く残され、秘境駅の宝庫だといわれています。
その中で秘境駅として最も有名な存在が、静岡県・長野県・愛知県の県境に位置するJR小和田駅です。
<秘境駅JR小和田駅へ>
JR飯田線の列車は運行本数が少ない典型的なローカル線。
長野県の岡谷行のJR飯田線普通列車に乗り込むと、列車は宇連川や天竜川がつくりだす渓谷を縫うようにのんびり走り、幾多のトンネルを貫いていきました。
△JR飯田線 JR小和田駅の場所
2時間半ほどかけて、列車はトンネルとトンネルに挟まれた山間にあるJR小和田駅に到着。列車が行ってしまうとホームには私ひとりだけがぽつんと残されました。
<秘境駅 木造平屋建てJR小和田駅とその周辺の風景>
△豊かな緑に囲まれて立つJR飯田線の秘境駅 JR小和田駅
JR小和田駅の駅舎は木造の平屋建て。駅舎の壁や柱などから木のぬくもりが伝わってきます。
それに周囲の豊かな緑とも相まって何ともいえない昔懐かしい空気感が漂っています。
△木のぬくもりと沿線の歴史を感じさせる秘境駅 JR小和田駅の駅舎
JR小和田駅は、JR飯田線の前身にあたる三信鉄道の駅として昭和11年(1936年)に建築された駅。
現在の利用者は存在はしているもののほぼ皆無に近い状態なのだとか。
△秘境駅 JR小和田駅の待合室。窓外には緑がこぼれている
JR小和田駅の駅舎でしばし休んだあと、駅の周辺を少し散策してみることにしました。
駅舎を出ると下り道がつづいているのでそれを下っていくと廃屋になった製茶工場がありました。
その先にも緑のなかに山道が続いており木々の隙間からゆっくり流れる天竜川の川面が広がりました。
川には美しい水がたたえられその水面には周囲の山々が静かに映しだされています。
△JR小和田駅周辺には豊かな緑と天竜川の流れがつくりだす美しい風景が展開
その先にも人家らしきものはどこにも見当たりません。
話によると、JR小和田駅から20分ほど歩いたところに1軒の民家があり、集落となると1時間近く歩いた塩沢地区に数軒の民家が存在しているのみなのだとか。
私は半日前まで大勢の人が行き交う新宿の一角にいただけに、同じ日本とは思えないそのあまりのギャップに唖然としてしまいました。これぞ秘境駅中の秘境駅です。
一体、どうしてこのような山のなかに駅が存在しているのかというと、かつては天竜川の対岸に富山村という村が存在し、その集落の住民が利用していたのだそうです。
しかし、天竜川に佐久間ダムが完成したときに村は水没。村人たちは他のまちに移り住んでしまったのだそうです。
<一時的ににぎわったことがあるJR小和田駅>
今や人影がどこにも見当たらない秘境駅となったJR小和田駅。ただ、一時期、全国各地から観光客が訪れにぎわったことがあるそうです。
それは現皇太子妃雅子様が1993年に御結婚の際のこと。皇太子妃の旧姓が小和田だったことから、その縁起にあやかりたいとJR小和田駅が一時的に観光客でいっぱいになったのだとか。
△JR小和田駅に御成婚ブームが起きたときにつくられた愛の椅子
ちなみにJR小和田駅から少し山坂道を下ると木造の東屋が建ち「愛の椅子」と称される木製ベンチが置かれているのですが、それはそのときの御成婚ブームの折に建てられたものだそうです。
<列車がなかなかやってこない・・>
△豊橋行の普通列車と木造のJR小和田駅
そんなこともあったのだなあと思いながら、再び山坂道を上り、誰もいないJR小和田駅に戻り時刻表を見ると、飯田・岡谷方面の列車がやってくるのは約3時間後。
こんな何もない駅で一体何をして時間をつぶそうか・・と考えつつ目を閉じると、野鳥の声や天竜川の瀬音が聞こえてきました。
何もないどころか、都会では味わえない貴重でかけがえのないものがいろいろあるようです。
手つかずの自然を五感を通して味わいながらゆっくり時間を過ごすことにしました。
(列車時刻表)JR飯田線豊橋駅の列車時刻表はこちら
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